俳句・十月
10.25
うそ寒し褒め言葉ばかりを欲す
思い出ししことなど
あのひとはまぁ、元気そうだしいいとして
このひともまぁ、元気そうだしいいのかな
心配なのは、あのときのあの子
駄目だよと強く禁止され
あの子の欲望はどこへいったのだったっけ
表面を削ると、血液がさっと流れる
それに見慣れたあとにまた深く削ると
今度はもっともっと軽く鮮やかな赤が生まれる
軽薄な人がうつくしいと言ったので
私は誰にも見せぬまいと誓ったのであった
うつくしい必要なんてないのだ
ただただ、皆とおんなじ血液の色が良かったのだ。
日記
今にも夕立が来そうな重い空気の中、タオルケットを買った。素敵なデザインでいて歩きやすいサンダルを買った。春用の布団をコインランドリーで洗濯した。
なんとも生産的ないちにち。(有意義であることを生産的というのか、断捨離を進めることは生産的なのかな?実際に物はなくなっているけど)
布団は立派な洗濯機でごうんごうんと大きな音を立てて1時間かけて洗われた。誰も洗濯物を待っている人はいなかったけど、私はなんとなく本を読みながらその場にい続けてしまった。田辺聖子を読んでいて、「恋愛」ってテーマはなんだか久しぶりだなーと、ふと岡崎京子を思い出す。岡崎京子を恋愛で括るのもおかしな話なのだけど、でも田辺聖子を恋愛で括るのも同じような違和感を覚えるので。
1時間して布団はまるで太陽に干されたような匂いをさせた。夕立が来そうだねと言いながら雨は一粒も降らなかった日。空がむらさきに暮れゆく。
俳句・五月終わり
夕暮れの公園にワインとテイクアウトした焼き鳥を持って、夫とふたりでぼんやり過ごした。青い空が少しずつ、雲のグレーとふうわりとしたピンクに満ちて、そのあとぼんやりと月が出て。まわりが薄墨色に沈む中、月だけが硬質にひかっている。焼き鳥の入ったビニールのさわさわという音、葉っぱがかさそこという音。それだけの中で、ふたりでずっと月を見ていた。ワイン2本分の時間。
春の月ワインボトルの空となり
生ぬるき六月風に鉄の月
春の月ワイングラスの無き恋や
風光りて生命赤く点滅す
てのひらをこぼるる都会の麦の秋
五月
春のあめ突如ボールペンの最期