九月

9.3

秋草やいつもの場所に灯りあり

主なき虚空をまわる扇風機

調律の狂ったピアノ秋あはれ

ねむりのかわりの句作り星月夜

きりぎりす鳴き止むやはらかな不眠

漱石の猫と戯れ夜長かな

アルバムは未完なるもの白き風

 

9.6

秋霖にけぶりて明き焼鳥屋

秋雨やねぎま串待つひそやかさ

焼台の裸電球秋の暮れ

 

9.6

マンションの外壁工事梨の蜜

夏惜しむアフロビートのリズムかな

茄子焼くとろりと酔ひし夫かな

 

9.7

鰯雲ほんとはそれを捨てたかった

 

9.8

道の果てダム湖に揺るる芒かな

行けど行けども追いつけず山笑ふ

 

9.9

短髪の束まとまらず秋暑し

青信号あへて見送る夏木立